夕餉の寂寥
松嶋慶子

そらの藍に背中を押されて
家路をたどるころ
夕餉の細い煙が
むんと鼻先に迫る 
白い炊きたての匂い に
立ちすくむ
かきむしられるこころ 
そして行き着くのは


誰かに会わなくては


という強い思い

屋根が空の闇に融解するころ、だ
その
不思議なまでに私をがんじがらめにする 感覚
スイッチなのだ
夕餉の匂い は
誰かに会わなくてはならない、という
切なく脅迫的なまでの、思い の



いつ

どこで

だれと



私は何ものなのだろう
この感覚は なに
抜け落ちている記憶があるのか
それとも
未来



自由詩 夕餉の寂寥 Copyright 松嶋慶子 2006-09-21 18:30:55
notebook Home 戻る