桃の黄昏
石瀬琳々

桃の産毛がこそばゆいので
黄昏は早くやって来る


桃の実を齧ると
甘い果汁が口なかに広がって
心をほわんと幸福にしてくれる
この愛らしい実のように
私もすこしは
やわらかくなったかしら


あなたは知っているの?
あなたの目から
かくれんぼしている私を
あなたを大切に思っているのに
いつも反抗してしまうわがままな私を


黄昏が私を包むから
迷子にならないように
あなたの背中を見ているの
晩生おくての桃のように
こうしてじっとかたくなになり


桃の産毛がこそばゆいので
黄昏は早くやって来る


(お母さん)


あなたを思うのは
今のうち 今のうち



自由詩 桃の黄昏 Copyright 石瀬琳々 2006-09-21 16:29:25
notebook Home 戻る