青梅の幼子の手にあまりけり
杉菜 晃


旅先で母親に背負われた赤子から
青梅を貰ってきた
長く握々されて熱くなった梅なんか
欲しくはなかったけれど
どうしてもやるというので貰ってきた
いらなくなったからじゃない
奴らは一番好きなものを
人にやらなければ
気がすまないんだな

そういうわけで
僕はいかにも貰って嬉しかったと
表現するのに一苦労だった
奴らは本当に嬉しいのかどうかを
見るからな
今にも母親の背中から
頭を下にして落下するのではないかと
はらはらするほど首を曲げて
僕を見ながら遠ざかって行った

その青梅を記念にと
焼酎で満たした広口壜に入れ
机に置いた
ぽっかりと月みたいに浮いている
少しずつ色づいてきている
黄色くなって満月になったら
赤子に見せてやりたい
名前も住所も知りはしないけどね

最近になって発見したことが一つある
赤子の一番好きなものをくれたと
書いたけれど
一番好きなのは母親だったのだ
最愛のものがあるから
次のものを僕にくれたということさ





未詩・独白 青梅の幼子の手にあまりけり Copyright 杉菜 晃 2006-09-18 11:12:36
notebook Home 戻る