ふぐり
恋月 ぴの

当て所無い片道切符の遠い駅
尿意に立ち寄ったトイレは
蟋蟀らしき秋虫の音が木霊する
あれは便所蟋蟀だろうか
所業に耐え無為と生きる便所蟋蟀
然し秋虫の類では無いような
さりとて確かめたりはしないだろう
世の中には不明の侭で在るべき事がある
ぽっちゃんトイレの穢れた便器よ
蝋燭のように白いおんなの手が
暗闇よりぬうっと伸びては
ひんやりとふぐりを撫で回す
ふぐりの重さはおとこの命
たんたん狸のふぐりさえ
木枯らしぴゅうぴゅう吹き荒び
うだる暑さにだらけてたおとこの命
物悲しさにきゅんと縮こまれば
夜の深さもふぐりで測り
嗚呼 もう秋深しだなんて天を仰いで


自由詩 ふぐり Copyright 恋月 ぴの 2006-09-13 23:32:24
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日記のようなことばたち