言葉旅
海月

最後の窓景色
それは冬だった
初雪が降っていてガラスに露が付いていた
無意識で指で文字を描く

「いってきます。」

落書き塗れのノートや塗り潰した教科書
机の上で埃を被っているのだろうか?
私が飛び出したあの日から何が変わったのだろうか?

一番高い切符が向かう場所
景色は思いの他に早く流れて
もう、私の知らない街並み

扉が開く度に知らない人が降りては乗る
一瞬だけでも同じ時を共有した
目的は違えども何処かで繋がった気がした
そうしたら、少しだけ泣けた

折れた切符が弾かれたは自分の姿によく似て
苛立ちさも起こす気になれず
マイルドセブンの味が口の中に染みた

東京に来て数ヶ月が経ち気づいた事は夜でも足元が見えた
アスファルトの感触に違和感も覚えても気のせい
と、自分に言い聞かせた

答えがこんな所にないと薄々は感じていた
孤独を恐れて人込みに紛れてみた
本当の孤独は此処に在って
私は全力で逃げた

逃げ込むように蹲った
雑居ビルの谷間
何とも言えない匂いがした
思い出したのは苦い思い出
思い出すのは飛び出したあの日
数ヶ月前の冬景色
窓ガラスに書いた
誓いの言葉

「PS.おかえりさない」

窓ガラスには消えた言葉
二度と出会う筈ない言葉

私はもう少しだけ旅を続けるよ
あの日の気持ちが在ったから
私は何処までも行ける
そんな気がするから

言葉旅はまだ続く


自由詩 言葉旅 Copyright 海月 2006-09-11 00:27:26
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