焼き付ける
松嶋慶子


夏の終わりの河原は
餌付けされて、もはや野生とは呼べない鴨たちの
小競り合いを眺める人、も まばらで
あなたは
鴨と
餌をまくジャージ姿の老人を眺めて
微笑んでいた
すこし曲がったその背に
かつて負われた私は
とうにあの日のあなたをも越えてしまった

月日は
二人から何を奪い
何を授けたのだろう
振り返るあなたの
夏を振り返るあなたの横顔に
今、
このときのあなたを
この目に、
胸に、
脳裏に
焼き付けなければならない、と
私は身を堅くして
あなたを
ただただ
あなたを見ていた


自由詩 焼き付ける Copyright 松嶋慶子 2006-09-10 01:23:31
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