無名
霜天
今日も名前を落しました、と
誰かがその部屋へ駆け込んでくる
それではあなたを何と呼べばいいのか
振り向くと君の支えは薄いものでしかない
ついに君も名前を落して
誰か、の一人になってしまった
拾い上げようと焦るうちに
輪郭は薄れて
道筋も分からなくなってしまう
肩を叩いて
割れてしまいたくなるから
夏が過ぎると暮れるのが早い、ね
似たようなことを繰り返している
順番待ちの長い列が
薄く伸びていったのは
夕暮れが迫っていたから、だけではないだろう
見つめている顔と顔とが
夜だからと混ざり合っていくような
世界
夢の終わりで、帰りたくなると
決まって声だけが繋がってくる
誰も、はぐれたがらずに、呼び合って
A、B、C
とりあえずの仮名を貰うと
次第に君たちになっていく
もう夏も終わりね、と
君の声があちこちから響くので
とりあえずDのあたりに頷くと
後ろから、殴られる
響きすぎることが
あまりにも都合の良い、季節に