無名
霜天

今日も名前を落しました、と
誰かがその部屋へ駆け込んでくる
それではあなたを何と呼べばいいのか
振り向くと君の支えは薄いものでしかない


ついに君も名前を落して
誰か、の一人になってしまった
拾い上げようと焦るうちに
輪郭は薄れて
道筋も分からなくなってしまう
肩を叩いて
割れてしまいたくなるから
夏が過ぎると暮れるのが早い、ね
似たようなことを繰り返している


順番待ちの長い列が
薄く伸びていったのは
夕暮れが迫っていたから、だけではないだろう
見つめている顔と顔とが
夜だからと混ざり合っていくような
世界
夢の終わりで、帰りたくなると
決まって声だけが繋がってくる

誰も、はぐれたがらずに、呼び合って


A、B、C
とりあえずの仮名を貰うと
次第に君たちになっていく
もう夏も終わりね、と
君の声があちこちから響くので
とりあえずDのあたりに頷くと
後ろから、殴られる
響きすぎることが
あまりにも都合の良い、季節に


自由詩 無名 Copyright 霜天 2006-09-08 01:19:38
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