ざ ふぉーてぃーん あにまる〜でひことでひこんちとときどきチン毛〜
土田
小学校のとき
のど渇くと
でひこんちに
よく寄った
でひこんちは
通学路の途中にあって
そこ通る鼻垂らしどもの
学校とじぶんちをつなぐ
給水ポイントみたいな感じで
オアシスみたいな感じで
憩いの場みたいな感じで
まあ、そんな感じで
でひこんちは
どうぶつたくさん飼ってて
いぬ二匹いて
うさぎ九匹いて
ねこも二匹いて
ぜんぶ外に飼ってて
なんだかんだくさかった
おれはみんな合わせて一四匹いると思ってって
十三匹だって威張っていたやつと
どっちが正しいか三回勝ったほうが勝ちっていう
じゃんけんを十五回したのをおぼえてる
「すいません、水飲ませてください」
「何人?」
「四人」
いつもはでひこんちのばあちゃんがでてきて水を飲ませてくれて
でひこんちのかあさんのときはジュースがでてきて
でひこんちの一番目のねえちゃんのときはジュースとうまい棒がでてきた
だからみんないつも一番目のねえちゃんのときを狙って水を飲みにいった
今日は二階に黒いブラジャーが干してあるからとか
今日は赤いクーペが車庫にあるからとか
今日はなんとなく居そうなふんいきだからとか
今日はすんごく暑いからとか
今日ばすんごくかっちょいい木の枝を見つけたからとか
今日は給食にイチゴミルメイクがでたからだとか
今日は何にも浮かばなかったからとか
ようはみんな一番目のねえちゃんが好きだった
のはちょっとあるけどでひこんちがなにより好きだった
でひこはすんごく背がちっちゃかった
いっつもひとつ下のやつらと勉強してて
九九の七の段は卒業するまで最後まで言えなかった
なんでか三時間目でいっつも帰って
おれは先生に抗議するやつらを見てちょっぴりうらやましかった
おれがまだ生えてまもないチン毛を剃ったのは
それから数日後の出来事だった
でひこは野球のチームではいっつもライトで
監督がへたくそだからボールはぜんぜん飛んでこなかった
バッティング練習が好きで
レギュラーにはなれなかったけど
一回だけ代打で試合に出て三球三振だった
でひこは毎日あのくさい家の外でバットを振っていた
でひこんち通るやつらならみんな知っている
ただ野球やっているのがおれだけっていうそんだけのことだった
あいつの目はいっつもギンギラリンにかがやいて
でっかい影がいっつも
どんな動物たちよりも伸びていた
おれのチン毛はもうぼうぼうだけど
なんだか急にのど乾いたし
今日はめずらしく夕日がきれいだから
西葛西から日吉の彼女のアパートまで
水飲ませてもらいにいこっかな
そうしたらもしかしてジュースとうまい棒よりもすごい
ギンギラギンの十四匹目の動物にばったり会えるかもしれないし