けだもの行(いとふるみち)
木立 悟




旅が
かすかにかしいでいる
分かれゆくかがやきの幾つかが
道に沈み 泳ぎ去る


家の陰に落ちてくるのは
わずかに早い 未来のまばたき
午後を閉じては
またたかせている


左目から去ったはばたきが
胸と胸のあいだに現われ
白くゆるりと
濡れた光の息をしている


冷たくやわらかい
波のようなしたたりを見つめるとき
けだものの口に
生まれくる色


折りたたまれた布の名前が
くらがりのなかはためいて
光に還る糸の柱
振り向く視界の片すみに立つ


けだものは自身を奏でては
音の無い場所をすぎてゆく
見え隠れするものを見つめながら
小さなまばたきへと近づいてゆく


水から来て水へ還る輪
水底に立つ火のかけら
遠く かしいだ星の光を
行方はゆるやかに追いかける


ほつれたものをつむぐとき
傷は傷の祝福になる
金の糸の子どもの名
けだものの背に降りつもる














自由詩 けだもの行(いとふるみち) Copyright 木立 悟 2006-09-05 13:05:48
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