俺たちの風、syota
佐野権太
いつだって遥か遠くを
見つめていた、正太
本当はそんな名前じゃないのに
誰もがそう呼んでいた
*
学校へ行く途中
平然と菓子パンを買った、正太
朝飯なのだと、悪びれず
無造作に半分ちぎった
菓子パンは罪と育った舌の上
じわりと溶けたピーナツバター
夏だけ水泳部だった、正太
悪ガキになりきれない僕に
おまえも入ればいいと水しぶきをかけた
しがみつくフェンス挟んで天と獄
銀のはじける自由な手足
ひとり自転車通学だった、正太
知人の家に預けているのだと
ためらう僕を荷台に乗せた
突風に落ちて転んだ秋たんぼ
仰向けの空、ペダルの光
ああ、とだけ短く答えた、正太
あてずっぽうに冷やかした僕を置き去りに
遠い目をした
空翔る鷹の瞳は大人びて
恋の行方に風のジェラシー
*
なぁ正太
思うままぶちまかしたい胸のうちを
ぐっと堪えて、頭を下げるたびに
尻から透明なセメダインが漏れちまうんだ
なぁ正太
華やかな旋律の裏側で
決められた場所にベース音を置いてゆく
あいかわらず俺は
そんな生き方を選んじまうよ
なぁ正太
二浪したって噂、聞いたよ
それでも正太、俺には見えるぜ
涼しげな、遠い瞳で
冒険を楽しんでる、おまえが
あの頃とおなじ、きみどりの風に
シャツを孕ませた、おまえの横顔が
大切なものは
何ひとつ、忘れちゃいねぇ
そうだろ?
いつだって
俺ら