あくび
壺内モモ子

混みあった電車の中で
携帯電話の画面を見ながら
泣いている男性を見かけた
年齢は三十代前半くらいだろうか
声はあげずに
時々
窓の外や
中吊り広告を眺め
今にもぐしゃぐしゃになりそうな顔を
ぴくぴくさせながら
静かに涙を流していた
何があったのか分からないけれど
とても綺麗な涙だった
ずっとその男性の涙を見ていたら
ふと目が合った
男性は恥ずかしそうにあくびをした
へたくそなあくびだった
泣いてもいいよと
にっこりほほえんだけど
男性は
眠るふりして私の笑顔に気がつかない
閉じたその瞳からも
とても綺麗な涙が頬を伝っていた


自由詩 あくび Copyright 壺内モモ子 2006-09-05 03:59:20
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