ながるる
まどろむ海月


                        

羽ばたくものと咲くものの別れの日
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

輝くものと沈むものの分かれのはざま
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

たつ兵士の胸に乙女の野の花
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

愛するものの病に貧しき人は薬なく
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

まばゆき王宮の傍ら 餓え凍える子らは泣き
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

王族の兄弟血族相争い 無辜の民の血に溺れ
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

風にも鳥にも見えぬ国境に憎しみの剣戟は絶えず
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

宝石よりも価高き戦車 点々と砂漠に埋もれ
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

復讐の復讐に復讐を重ねいき 墓標累々として
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

墓標累々として 母ら子らは泣き
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

兵士の行方を知らず 春いちめんの野の花
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている

父母の与えし錦を破り捨て 王子は医師となりて荒野へ
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている



妻子捨てふるさと捨てて 癩の人旅立つ
 そのそこに さらさらと
  さらさらと ながれている





 茜さす 東雲(しののめ)の しめ野ゆき
  ながるるもの ゆくへをしらず
   さらさらと さらさらと ながれ
















自由詩 ながるる Copyright まどろむ海月 2006-09-02 23:21:18
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