虫よけの風
服部 剛
出勤のバスの中
ぷ〜んと近づいた
蚊
(
か
)
を
合わせた両手で
潰
(
つぶ
)
す
指にこびりついた
ご遺体を
どこへやろうか
置き場に少し困って
床に落とした
( 蚊 は
眼前
(
めのまえ
)
から取り除けても
( 人 は職場から取り除けない
誰かの気まぐれな
一言
(
ひとこと
)
が
ちくりと胸に刺さったら
それは
ちっぽけな、蚊の一刺し
窓の外
靄
(
もや
)
がかった空には
「虫よけスプレー」の缶が浮かんでおり
バスを降りると
遠い空から地上へと噴射される
密
(
ひそ
)
かな風を身に
纏
(
まと
)
い
職場の門へ
今日も歩く。
自由詩
虫よけの風
Copyright
服部 剛
2006-08-31 21:21:14
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