カブトムシを捕りに
ブルース瀬戸内

この島で一番大きなカブトムシを捕まえる、
が男の子の最近の口癖です。

何がカブトムシ捕りへの情熱をかきたてるのか
よくは分かりませんが
男の子にとってカブトムシを捕まえるということは、
父性や男らしさ獲得のメタファーとなっているのかもしれません。

男の子は大きなアミを用意して、素振りなんかして捕獲に備えます。

そして男の子は
島に一つだけあるクヌギ林に行って大捕物を開始します。

しばらくすると
男の子はアミをぐっと構えました。
目は強烈に希望の色彩を帯びています。

一本のクヌギの木に
カブトムシのカップルがとまっています。
二匹ともかなり大きいです。

オスが樹液をたくさんかき出して
メスと一緒に飲んでいます。

男の子は捕獲のタイミングを窺いながら
それを見ていましたが
仲良く樹液を飲むカブトムシ達を見ていると
なんだかそっとしてあげたくなって
そのままクヌギ林を後にしました。

結局、男の子は
大きなカブトムシを
捕まえることができませんでしたが
肩に担いだアミには
いまや誇らしいものがたくさん入っていそうで
それはそれで夏の夕焼けが美し過ぎるのも相俟って
何かのメタファーのようでもあります。

でも
男の子は本当は
虫かごを忘れた故の
決断をしただけかもしれません。

帰り道の途中から
男の子は
走り出しました。

もうすぐ、夕飯です。


自由詩 カブトムシを捕りに Copyright ブルース瀬戸内 2006-08-30 01:34:38
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