羽蟲
TRENTETUNE

駅のベンチにそっと腰かける
立って地面を見つめるよりも
地平に近い感じや
上目遣いに空色を伺うあの角度
それらが僕は好きなのだ
ベンチの背もたれに体重をずしっと預ける
浅くかけた腰とベンチに
わずかばかりの狭い隙間をつくる

そういえば
私が初めて覚えた感覚とは
冷たい闇と しっとりとした土の匂い
年月を経て 初めて眼にする太陽の光は
明るいとも眩いとも思えない
おそらく私の感覚器官自体がそうなのだ
次に覚えているのは
地上へ出た翌日
一羽のムクドリと出会ったことだ
ムクドリは自らの力を試すだけのために急降下をし
私を食す訳でもなく 悪戯っぽく私を啄んだ
私の羽はあなたの数メートル前に散り
私は力無く地上に堕ちた
仰向けになった軟らかい腹部を射すのは
あのじりじりとした太陽だった
私はもがく術を奪われ 足掻くこともできず
運命をただ受け入れることしかできず
ただただじっと世界が閉じる瞬間を待つ

無様な私を笑うがいい
僕が私を見ている 私があなたを見ている
そして僕はベンチを後にしたのだ


自由詩 羽蟲 Copyright TRENTETUNE 2006-08-29 20:23:24
notebook Home 戻る