花火
あおば
あれ、
この花火どうしたの
おかあさん もらったの
今日はけんちゃんの命日だからね
買ってきてもらったんです
こんな暑い日だったの
戦死公報に載ってただけ
亡くなったのはいつどこだかわかりゃしない
昭和19年夏、ニューギニアのどこかで
なんにも食べるものがなくて死んだんだ
あの子はね
忠実でお茶目で気立てがよくて
木登りだって、泳ぐのだって
魚釣りだって、何やらしたって
いつも一番
話すのも上手だから
女の子にも人気があって
毎日がほんとに楽しみだったよ
よく私の手伝いもしてくれてね
お駄賃をあげると嬉しそうに
花火を買って近所の子供たちと
遊んでいたんだよ
ねずみ花火は狂ったように
足下をくるくる回る
女の子たちが怖がるのから
いつもあの子が
火をつけてやっていた
しっかり火をつけるから
立ち消えるなんてことは
絶対に無いんだ
学校の成績だって
とっても良かったんですよ
あれから、もう60年が過ぎて
責任者も消えてなくなり
みんな忘られてしまった
従兄の健一さんのことを
こんな風に話す人は
もう何処にもいなくなってしまった
けんちゃんが死んで
終戦となり
私が生まれた
戦争放棄の新憲法も
リストラ対象の中年となり
利益追求の経営者の冷たい目に
わけもなくおびえている
また、けんちゃんみたいに
赤紙もらって行くことになるのかね
この頃のやり方を見ていると
すぐにそうなるかもしれないね
おまえはもうお役には立たないけれど
あの子たちはまた行くことになるんだよ
なんにも知らないで、無邪気に花火で
遊んでいるだけなのに