白樺とキャラバンと夏の予定と
水在らあらあ





一.

戦争を俺は知らないんだと はじめて思い知ったのは
キプロス島に ある朝突然逃げ帰った妻が いつか話した
占領の話 地下室の話 息を殺して
あいつが真似た マシンガンの音
そのあとの 塩っ辛いくちづけ

(そう俺は戦争も世界も知らないで
 おまえの唇は野生で俺は怯えて)

なあおれたちどんな世界にいるのかなあ
爆弾とか落ちてんだぜだってそんな中で
俺たちはピレネーに車走らせる予定だ
そこで大自然とか見ちゃうんだぜ
そこで欲情とかも絶対するぜ
大自然見るとね
どうもね

で欲情したら俺はもう
走るよ
走るから
追いかけて
おまえが
逆に
俺を
捕まえてくれ

(いつ燃え上がるか
 分らないんだから)



二.

家の前にある公園の白樺を
その上のほうを
見ていた
風のない日
霧雨で
揺れない葉は濡れて
そこにはあいつが
小さく小さくまるまって
ギリシャ語で
聖書の言葉を
泣きながら
聞こえない
聞こえないよ
そんな
もうよそうよ
おまえが額に手を当てて崩れ落ちるから
俺はほとんど
現代ギリシャ悲劇の
主人公にされちまって
でもおまえ日本食好きだったじゃないか
ご飯ばっかり炊いてたじゃないか俺たち
豆ばっか煮てたじゃないか醤油で
聞こえない
聞こえないよ
もう
降りなよ
いつまでも木の上で
風邪引くよ
もう俺は
いないから
下で
待ち構えてたり
しないから
それに

 (いつ燃え上がるか分らないんだから)



三.

公園の前にはキャラバンが止まってる
全体に森の絵が描かれている
スプレーで
毒々しい色した茸を集めて
いたずらな顔した妖精が二人
顔見合わせて笑っている絵

ドアが開いて
若い女が笑いながら飛び出して
男が後ろからスカートの裾つかんで
引っ張って
女の笑い声がまるで子供みたいだ
男はあれはもうゴリラだ
実際にターザンがいたらあんなんだきっと
ああいいな いい二人だな 暴れてる

爆弾 だ 愛の それが それで その

ほかに 何か できて それで 俺も おまえも あいつも みんな
迷子で 九月の また あれ 来るけど インドの こないだのは
もう だれも 話さ なくて 街は 霧雨で 果てまで 霧雨で もう
スリーミリオン 以上 だって それが どうして 話され
ないのか アフリカの ある国の CIVIL WAR が ほかに なにが
できて ねえ ピレネーの ほう 行こう 少し 高い ところへ 俺たちの
息は 希薄に なって 想いは 濃く なって 好きだ 好きだ 
好きだ 死者 三百万 以上 だぜ おい 人だぜ 人 報道が
怖いよ もう いやだ はじめの 報道が あった
時点で そんな そんなさあ ねえ ピレネーの ほうに 人 血
ながして 少し 高い ところへ もう 少し 薄い ところへ
今も 今も 今も いつまでも 


いつ 燃え上がるか 分らない
















自由詩 白樺とキャラバンと夏の予定と Copyright 水在らあらあ 2006-08-28 22:11:23
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