潮騒を包む風は優しく
プル式

住んでいるアパートの階段で
小さな蜘蛛が巣を張っていた

それは何処にでもいる小さな蜘蛛で
だけれどもその姿は初めて見るほどに
頑なに黙々と同じ動きを繰り返し

ひぐらしの声や鈴虫の声が聞こえて
いつの間にか夕暮れになっている
蜘蛛はもう巣を張り終えたのか
どこかに身を潜めた

幾度目の引越しだろうか
僕がこの家に越してきたのは
ちょうど一年ほど前だった気がする

暑い厚いと言いながら
あれが欲しい これが欲しいと
生活を追いかけていた
そう
追いかけていた

東京では色々な事があった
それはとっても夢のような日々で
まるで子供の頃の夏休みの様で
毎日泥まみれに遊んで
笑って 走って
転んで 泣きじゃくって

夏休みはいつか終わらなければならない
夢はいつか醒めなければならない
まだ手付かずのノートを手にしていても

僕はもうじき東京を去る
秋の気配は
別れの季節には悲しすぎると言うのに


自由詩 潮騒を包む風は優しく Copyright プル式 2006-08-28 18:34:13
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