葉leaf

少年の庭に咲かれた一輪の花
匂われて
光られて
やがて散られてゆく
そんな花の花
の花の内側を醒ましてゆく
夏の繊毛
角膜
破瓜
少年は不安によって
空間を把握する
不安の立面に鋭角する
羞恥の口唇 
少年のすべては皮膚の光沢
少年の空洞には
夏の爪たちが散らばり
世界の枝葉が粉々になる

少年は
肉体を閉ざすことに
飽きている
精神を分かつことに
倦んでいる
肉体でも精神でもないなにものかの
航跡を
射影を
円環を
拳の中に蓄えて吸い込んでいる
落下する少年のまなざしを受けて
夏は世界と媾合し
蒸気を焼き
色を焼き
少年の質量を焼く
少年は思う
夏が夏を死ぬとき
僕も僕を死ぬことができるだろうか

空には目に見えない起伏があることに
少年は気づいてしまった
どのような憎しみでも
にぎやかな放物運動の後には
空に吸着する
少年の影に彫られた頚椎には
殺意が環流する
預言する
透析する
どんな呼吸でも
土の脈拍によって打ち消される
どんな心臓でも
(木肌に結晶する磁力)
に突き通されて(前転するめまい)
を管の肉と置き換えて(日光の砕片)
へと少しずつ生き急ぐ

夏は終わり続けている
母は生まれ続けている
少年は感じる
ひとつひとつの雨粒の中でも
母は分裂していることを
アジサイの葉は母を散乱させている
スギの幹は母を吸い上げている
少年を産んだ女性は
母ではない
肉体を得て精神を得たとき
母は母でなくなった
少年は泣く
母の愛に触れることが
永遠に不可能だから

夏の太陽には少年の血が混じっている
腿に太陽を埋めるとひんやりして
太陽が冷たい直線でできていることが分かる
夏の時間はやわらかい塊だ
少年が塊の中に入ると
エーゲ海の類
太平洋の類が
時間の皮膜を透明に染めてゆく
少年は時間を巡航しながら
風景の敵意にじかにさらされる
百年前の夏をまとって
二千年後の草いきれを掃討する
少年は世界を一枚めくる
世界の裏側には
夏の卵がびっしりはり付いていた


自由詩Copyright 葉leaf 2006-08-26 15:24:35
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