『鈴香』
士狼(銀)

僕には、
鈴香すずか京香きょうか由香ゆかの三姉妹がいました
次郎じろう君は彼女たちと一緒に暮らしていました
彼女たちにはそれぞれ次郎君の子供がいて
鈴香は三回、京香は二回、由香は四回生みました
鈴香は一回、京香は一回、由香は二回の流産を経験しました
生きて生まれた子は、どの子も五つ子でした
皆幸せでした

子供たちがやっと親の五分の一程度に成長した日
次郎君が死にました
悲しみに暮れた京香と由香も死にました
五の子供が死にました
僕はその度に泣きました
鈴香だけが二十の子供に囲まれて
生き続けました
子供は次々に死にました
皆、次郎君が恋しくて死にました
残ったのは八の子供でしたが
鈴香の子なのか京香の子なのか、由香の子なのか
見分けがつかないくらいそっくりでした

ある日僕が鈴香の元にやってくると
三の子供しかいなくて
鈴香の腹は、ぱんぱんに膨れていました
床には幾つか肉片が残っていて
鈴香が五の子供を食べたのがよく分かりました

それから僕は三の子供を隔離して
鈴香はひとりぼっちになりました
それでも鈴香はお腹が空いたら生みました
次郎君の子供であることを祈りながら
何度も何度も生みましたが
どの子も生きては生まれませんでした
鈴香は食べて食べて、また腹をぱんぱんにして
それでも次郎君を忘れられないようでした

その頃、残った三の子供は鈴香の二分の一にまで成長して
僕は一姫いちひめ二太郎にたろう、それから三四郎さんしろうと名前をつけました
一姫は四の子供を産みましたが
二太郎の子なのか三四郎の子なのかが分かりません
二太郎と三四郎は喧嘩をしますが、すぐに仲直りをします
良い子たちです
一姫は体が大きく、赤い線が非常に美しい子です

ひとりぼっちの鈴香も生みました
生まれない子を生み続けました
僕はあまりにも鈴香が可哀相で、
それは、確かに子供を食べてしまったけれど
長女として子供たちを守るために
次郎君の後を追えなかった鈴香が可哀相で、
だから
週末に五藤ごとう君と六海ろくうみ君を連れてくるつもりです
水草に未受精卵を産み付けては食べてしまう鈴香も
きっと寂しくなくなると思います
その頃には、一姫の卵も十程孵化することでしょう
第三世代の世話が忙しくなってきて
僕は受験勉強どころではなかったりするのです


自由詩 『鈴香』 Copyright 士狼(銀) 2006-08-26 09:34:39
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
獣化