血の匂い
水在らあらあ

一.

 俺の知らない赤で
 雲が光の中で
 死んでゆくんだ
 今も

 おまえの知らない青で
 波が砂の上で
 壊れてゆくよ
 ほら

 見ろよ
 カモメの親子が今
 俺もおまえも知らない
 風に乗ったぜ

 そんなさ
 そんな風景の前に立って

 何か まあ なんにせよ綺麗な
 何かにやられちまって
 でへへへ えへえへ って
 笑っているおまえは

 真っ白いドレスを着て
 そのドレスの白も笑い声も
 俺たちが知らない風に
 流れるから

 その風を
 二人で名付けて
 その名前を
 夕日に預けて

 明日まで 燃やしてもらえばいい
 そうしたら
 俺たちの恋が朝焼けとともに
 この地に漂い始めるだろう

 虫も動物も
 鳥も魚も
 木々も草花も

 知るがいい


二.

 朝 目覚めて
 テントを開けたら
 森の動物たちや
 鳥たちが
 勢ぞろいしていた

 ら
 さあ
 俺たちもう
 文明あきらめようね
 どうせ人付き合い上手じゃないし
 この丘に住もうね
 森も
 海も近いし
 そして年取って
 少し命の謎が解けて
 魔法が普通に使えるようになったら
 ヌシって
 つがいのヌシって
 呼ばれてもいいし
 ね
 その頃にはもうたぶん
 いろんなことがどうでも良くなっていて
 今日のこの日のこととかも
 忘れちゃってるのかなあ
 それは少しさみしい気もするけど

 ね あれ
 聞いてないでしょう
 よくねむれるね
 俺なんだか 眠れそうにないな
 ねえ
 ねえ

 ねえ

 星

 すごいよ


 ねえ





三.

 夜中ずっと
 ふくろう鳴いてたし
 羊の群れも来たりしてびびったけど
 今朝は 二人だけだ

 木の実を頬張るおまえを
 見つめている俺は
 朝日にうたれて
 死んじまってもいい

 そんな朝だ
 二人きりの
 結局
 二人きりだ

 こんな朝日にうたれて
 死ねるもんなら
 死んじまってもいいが
 おまえが見つけた木の実が

 あんまりきらきらしてるし しかも
 おまえの白いドレスはもうぜんぜん白くないし
 それ洗濯すんのどうせ俺だし
 種をなるべく遠くに

 朝日の中に
 飛ばそうとしているおまえの
 匂いがもう一度ほしくなって
 じゃあ勝負しようぜ

 それじゃあ負けたほうが言うこときくのね
 望むとこだぜおい
 で
 負けて


 おまえの匂い
 血の
 匂い
 その中で

 その只中で
 立ち止まって
 目を閉じて
 



    ―― 虫も動物も
       鳥も魚も
       木々も草花も
  
       知らなくていい













自由詩 血の匂い Copyright 水在らあらあ 2006-08-26 02:44:53
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