オルフェの夏
石瀬琳々

かつてお前はあんなに
力強く 熱く燃える目をしていたのに
風のように自由で その歌声は若々しく
どこまでも駆けていけたのに
お前の炎はかくも色褪せ
かきならす竪琴は銀のささやき
お前はこうべをたれる お前のうなじにくちづけするものに


かつて失われた恋は
樹間に白い素足をかいま見せ
忘れた頃にお前の魂を衰えさせる
風の玲瓏れいろうに指先をのばし
なつかしいあの白い指先を捉えようとするけれど
木の葉のいたずら それは光の翳り
満ちてゆくものにお前は後ずさりして
それでもなお手をのばす 魅きつけてやまない面影に


カルナバルは終わろうとしている
お前のため息に新しい世界が生まれ
お前の涙に新たな色彩が輝きはじめる
エウリディケの指先に
裏切られゆく 夏のかなしみ
            オルフェの夏よ 


自由詩 オルフェの夏 Copyright 石瀬琳々 2006-08-25 15:37:58
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