雨の森
きりえしふみ

語らう小鳥の 囁きも
野を渡り疲れた 風の旅行着も
みんなみんな小綺麗に 仕舞い込まれています
雨の衣服のポケットに
消えた森、そのものが すっかりと
畳み込まれているのです

 だから あなた あなたも懐かしく思うでしょう?
 戸を叩く雨音に 呼ばれたように 思わず
 振り返ってみたりして
 雨が降ると とたんに 町へ
 迷い出てしまいたいと 願ったりして

消えた森、消えた町は うっすらと
雨が降るたび 噴霧され
突然 あなたの足音、私の足音まで 消してしまう
道行く車の轟音も 夢物語のように 遠い音になってしまう

 (森は本当に死んだのですか?)
 ……いいえ森
 彼は地上から雨のただ中へ
 好んで 住まいを変えただけです……

雨が降るたび 里帰りする森は
かさかさ 枝葉をしならせながら
地上へと 透明の根を張り巡らせる

それ故 あなたも、私も
雨が降るたび 急に 泣きたくなるのです
つっかえたよな 「ただ今」に
「お帰り」の言葉は 持たなくても

(c)shifumi_kirye 2006/08/25

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自由詩 雨の森 Copyright きりえしふみ 2006-08-25 12:30:43
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