十一代目の雀
杉菜 晃


詩は語らずに歌えって
俺の先生が言った
先生って誰だ
そう訊くから
雀だって言ってやったよ
スズメ?
雀だ 雀だ 雀の学校の先生だ
俺はそう言うしかなかったぜ
だって、その通りだもんな

俺はこの夏 十六年ぶりに古里に帰ったんだ
みやげも みやげ話も なしっこでよ
しゃばのぐち話をひっさげてよ
他に何があるってんだ
俺をまともに扱った奴なんて
一人としていなかったんだぜ
俺はふんまんで爆発しそうになる腹を
何重にも腹巻で押さえ込んで
帰省したわけよ

その俺を喜んで迎えたのは
家を継いでいる兄でもなければ
兄嫁でもない
その餓鬼どもでもない
昔一緒に遊んだ幼馴染でもねえんだ

俺を迎えたのは
屋根に一列に並んで囀っている雀だったんだ
俺が家を出るときにいた雀なんか
一羽としていなかった
その頃の雀はみな土になっていた
雀ほど土の色とそっくりな鳥はないからな
雀の代は進んで
八代 九代 十代目の雀が囀っていたんだ
それでも
はかないいのちを哀しむ雀なんか
いないんだ
一羽としていやしねえ
天真爛漫 あるがままを受け入れて
賑やかに囀っていたんだ
背景は空の深い青
白い入道雲
山の稜線を彩る濃緑と浅緑
そのなかに溶け込むんじゃない
自ら風景の一部となって
てんでんばらばら
喧しくも高らかに
雀の歌を喚いていたんだ

そこで俺は不遇をかこつなんざ止めにして
雀にならって歌ってみたわけよ
それが次の歌だ
勿体ぶるわけじゃねえ ただの腰折れよ

―うらぶれて帰郷の我を迎へしは十一代目の雀なりけり―

腰折れでも本心だ
分かるように 注釈すると
十一代目なんかどうでもいいんだ
ことばの綾よ
十代でも六代でも五代でもかまいやしねえ
はっきりしているのは
十六年前の雀は一羽残らず
土になっていたってことよ
もしかしたら
あの天の星屑になっているかもしれんさ
夜になると
この過疎村は真っ暗で寂しい限りだが
天の川はいちだん明るくなっているからな
星雲が濃淡の星を散りばめ
網に入った夥しい魚みたいにきらめいて
だーっと宇宙の果てへと
うねりおちていくんだ
壮観だぜ
一身の不幸を嘆いちゃいられねえよ
まったく



自由詩 十一代目の雀 Copyright 杉菜 晃 2006-08-24 10:57:31
notebook Home 戻る  過去 未来