竜の眠る森
ajisai

夜になると森の奥から
ピュー ピュー ピュー
と音が響いてくる
僕は竜のいびきの音だと思うんだ
大人達は森の奥の谷を抜ける風の音だと言う
でも僕は信じていた
森の奥には竜がいるって

ある満月の晩
僕はこっそり寝床を抜け出し
森の奥の谷間に向かった
真実を確かめるために

僕は音のする方へどんどん歩を進め
やがて谷間に小さな洞窟を見つけた
音はこの奥から響いてくる

僕は明かりで洞窟を照らしながら
奥へ奥へと進んでいった
音はどんどん大きく響いてきて
明かりの先に何かがいるのが見えた

急に音が止みごそごそと動く気配がする
僕はゆっくりと慎重に歩を進める

そこにいたのは子犬ほどの大きさの
翼を持った小さな竜だった
竜は眠たげに目を擦りこちらに顔を向けた
琥珀のように透き通った瞳だ

やっぱり竜はいたんだ

可愛らしくもあるけれど
小さいながらに雄雄しく精悍に見える

僕と竜はしばらくの間見つめあっていた
僕が微笑みかけると
竜は瞳を輝かせてそれに答えてくれた

しばらくすると竜は首を伸ばして
大きく口を開けて欠伸をした

それを合図に僕らは別れた
背を向けて歩き出すとすぐに後ろの方から
ピュー ピュー
といびきが聞えてきた

僕は誰にもこのことを言わず
ずっと心のうちに秘めておく
僕は竜と見つめあいながら
暗黙のうちにそう約束したのだ

竜の眠る森がある
それは僕だけが知っている秘密


自由詩 竜の眠る森 Copyright ajisai 2006-08-23 14:13:16
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