鳥のうた
千波 一也
一羽の鳥が空をゆく
わたしには
その背中が見えない
いつか
図鑑で眺めたはずの
おぼろな記憶を手がかりに
爪の先ほどの
空ゆく姿を
わたしは
何倍にも引き伸ばす
こんな日に限って陽射しが強い
一羽の鳥が空をゆく
叶うのならば
わたしもその横をゆきたいのだが
空は高い
いや、
高さなどのせいではなく
空はやはり
空以外のなにものでもないのだから
わたしが届く理由は
一つもないのだ
見上げる瞳は夢の放物線
虹の架からない空に
絵筆はいくつも許されて
いかにも満足そうに
一羽の鳥が空をゆく
わたしが放った夢のあとさきを
鳥はどこまで見届けただろう
鳥の言葉を知らないこの耳は
探しに往け、と
ささやきを聴く
わたしの声の
再生の
ひとつふたつと旋回の後
一羽の鳥は去ってしまった
背中はついに知らず終い