ある恋人の話
コトリ





夜中、それは終電直前のことでした。

彼女は

電話しました

彼氏に


「さみしいから、いますぐきて。」


そして

彼氏は

きました

30分以上

電車に揺られて

駅から20分歩いて

彼女の部屋のまえに


鍵がかかっていました

ですが合鍵があるので

問題はありませんでした


ところが

彼がドアをひらこうとすると

「ガチャリ」

という音が鳴り、ドアは開きませんでした

なんと、チェーンがかかっていたのです

これも

用心深い彼女にしては

普段どおりのことなので

彼氏はチャイムを鳴らしました

ぴんぽーん

ぴんぽーん


返事はありません


彼氏は、彼女に電話を掛けることにしました

う゛ーん う゛ーん う゛ーん

彼女の部屋から

彼の着信バイブが聴こえてきました

彼氏は、悟りました


彼女はチェーンをかけたまま

ねむってしまったのだと

そして薬の力で深い眠りについた彼女は

当分目覚めることはないのだと


そして、疲れている彼女には

そういった眠りが必要なのだと

好意的に思うことにしました


さて

彼氏は時計を見ました

終電はとっくにいってしまっていました

タクシーで帰るには

彼の家は遠すぎてしまいました


彼氏はとぼとぼときた道をもどり

漫画喫茶で一夜を過ごすことにしました

インターネットを何度かチェックしましたが

彼女の目がさめた形跡はありませんでした


そして、始発で

多くの週明けの酔っ払いたちと共に

彼氏はお家へと帰っていきました



彼女が目を覚ましたのは

明朝六時のことでした

仮眠を取るつもりが熟睡してしまい

いま何時かしらなんて思いながら

携帯をひらきました

着信の数と

「良くお眠り」というメール

そして、すべてを知りました



実際のところ

彼女は、彼に電話をかけた記憶すらありませんでした

それは、あきらかに

彼女の飲んでいる薬のせいでしたが

彼女は、とてもかなしくて

涙を流しました



今日もよい天気になりそうです

彼女のいちにちはいまからはじまります

彼氏の眠りは いまからはじまります


自由詩 ある恋人の話 Copyright コトリ 2006-08-21 08:43:08
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