濃度のない水
ku-mi

金魚のいなくなった水槽
水だけが循環している

もともと
おしゃべりな生き物ではなかったけど
少しだけ部屋が静かになった気がするのは
名を呼びかける
右上がりの私の声

青く発光するガラス管
夜ごと幻想を見ていた
狭い直方体の中で
共に果てまで泳ぎながら
唇からもれた溜め息で水を汚していく
いっそこの体ごと
微細な泡になってしまえばいい
そうして循環されたあたしなら
もっと、ずっと深いところまで
あなたを愛せたかもしれない。

熱を帯びたまぶたが
いつまでもさめない
いなくなった金魚
与えたかったものがまだ
半分以上も残っているのに


自由詩 濃度のない水 Copyright ku-mi 2006-08-21 00:15:06
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