みどり ひびき
木立 悟
家のまわりをまわるうた
窓は朝に消えてゆく
窓は蝶になってゆく
壁に隠れ
また現われる
蝶は鳥になっている
蝶になった窓たちが
左まわりに空をまわし
鳥になった蝶を巡る
壁のはざまに沼があり
蝶になれない窓が沈み
近づくものを緑に照らす
家がまわり 地がまわる
遅れつづける光のほうへ
空はうすく片目をひらく
誰もいない通りの灯に
記憶ばかりがかがやいて
羽のうたを聴いている
鳥が曇になる無音
浮かびも沈みもしない水紋
沼をわたり 消えてゆく
片目が緑の空の下
うたになりかけた空の下
蝶は窓のない家をまわる