なつかしいひとへ
砂木

自転車の私と
白い軽自動車の先生が会ったのは
広い水田の中の十字路

偶然にもかごには
できてきたばかりの詩集
それはコピー誌で手作りで
でも 作品を集めてお金をだしあって
イラストをつけて貰ったりしてできあがった
はじめてのみんなの詩集だった

中学の担任である先生には
詩を読むから持ってきなさいと言って頂き
いつか読んで貰おうと思う事は
私の心の支えだった

青雲を仰ぎみる中
小さな詩集を手に
私は何を騒いだのだろう

女流画家として認められていた先生からみれば
評価という目を通せば ありふれたものだったろう

情熱という言葉だけ覚えている
まだ十代の私に やさしい人だった

その詩集を贈った私に 図書券を贈ってくれた
記念にねと
先生先生先生

もう戻れないあの十字路
それでも 病室の窓からそらを描いてみせてくれた
先生が画家だから私は絵も憎みきれない
たとえ言葉をなくしても

これから また少し進みます
青雲を仰ぐ勇気をください
先生







自由詩 なつかしいひとへ Copyright 砂木 2006-08-14 08:44:04
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