それぞれの夏
恋月 ぴの

繰返してはいけないと思っていても
繰返してしまう
それはちょうど悪戯っ子が
すぐにばれてしまう悪戯を繰返すのに
似ているのかも知れない
かまって欲しいわけでもないし
誰かに判って欲しいわけでもなくて
それでも繰返してしまって
鎮守の森を渡る小鳥の囀りを
ひとり 体育すわりなんかして
聴き入っている自分に酔いしれていたいだけ
明後日の正午になれば
いっせいに黙祷する姿がテレビに映る
それは毎年繰返される光景
アナウンサーの言葉が
うだるような夏の暑さに吸い込まれてゆく
それも毎年繰返される光景
バットのかわりに操縦桿を握り締め
眼下のふるさとに翼を振った
戻れない帰れない旅立ちの空は
こんなにも晴れ渡っていたのだろうか
そうなんだよね
悪戯っ子の悪戯のように
繰返してしまうものなんだよね
蝉が鳴いていたと思ったら
赤とんぼがいつの間にか飛びはじめて
ひとり 体育すわりなんかして
夏のふるさとを歌うことすら出来なくなって
どうしようもなく
繰返されてゆくものたちの前で
わたしたちは


自由詩 それぞれの夏 Copyright 恋月 ぴの 2006-08-13 16:10:57
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わたしたちの8月15日