時計のキリン
結城 森士

・・・*1*・・・



後ろから追ってくるキリンの
長い脚と首と黄色い胴体と
短い角と
真夜中の草原を逃げ回る
恐れる僕の手足と裸足と
小さい寝巻きが
交差する
長い脚と短い角と
恐れる裸足が
交差する

夜の草原に
キリンの黄色い足音が
一刻一刻と迫ってきて
僕は恐れる裸足で
風の無い世界を
追われている


夜空に月が出ていた
丸くて黄色い満月だ
僕は満月に救いを求めた
それを見た黄色いキリンは
闇の空に首を伸ばして
一口で食べちまった


寝ている僕の背後から
キリンの鼻息が聞こえる黄色い夜
長い脚と短い角と恐れる裸足が
交差する風化した足音





・・・*2*・・・



お向かいのお嬢さんが
自分の部屋の窓を開けて
夕暮れの風に手をかざした頃

誰も居ない見晴台は
赤く染まっていた
そして僕の赤いキリンは
太陽を怖がっている

(もう一度眠らなくては)

・・・・・・

夕暮れの夢を見ていた
風が真夜中を知らせている





・・・*3*・・・



ベッドの上で眼を覚ますと
僕の部屋は朝焼けに包まれていて
ドアの前に男の影が佇んでいた

その男を僕は知らない
その男は僕を知らない
何も喋らない
決して動くことはない


ぼんやりとした意識の中で
僕はいつしか朝靄の中に立って
ベッドで寝ている男を見つめていた

その男を僕は知らない
その男は僕を知らない
何も喋らない
決して動くことはない

生温く
草の匂いのする新鮮な朝に
僕は風の声を聞いた気がする

太陽は既に上がっていた
男の影はいつの間にか
僕の後ろに伸びている
朝靄の中で
キリンの鼻息が


もう一度眠らなくては



自由詩 時計のキリン Copyright 結城 森士 2006-08-11 22:03:40
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