望郷
美味

お盆になると
実家には
離れて暮らしている兄弟たちが
一斉に集まり
昔を懐かしむ蚊取り線香の匂いが
きしむ床や汚れた壁から
おもむろに流れている

帰郷する度に
夕飯に並べられる
から揚げやコロッケに
少し飽きた思いを抱いて
それでも舌鼓を打っている

変わってしまったのは
白髪ばかりになってしまった父母と
ビールを飲むようになった
自分くらいなものだ

中学生のときに飼い始めた
犬もすっかり年老いて
鼻をすんすん鳴らしている

父母兄弟が集まれば
昔話ばかりで
母はいつもよりずっと饒舌になる
自分では覚えていないような
子供の頃の話を
一人ずつ順番に語って聞かせる
父は好々爺の顔で頷いている
更ける夜は蚊取り線香の灰が
教えてくれる



滲む太陽に繋がれた母子の手
風と回る風車は夕に戯れて
幼き眼は遠く鳴く蝉の声を
追う空に一つ光る星を見る



昔からなにも
変わらないこの風景は
いつでも帰れる居場所を
そっと用意してくれている
一時の安らぎを添えて






自由詩 望郷 Copyright 美味 2006-08-11 01:16:09
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