喫煙所で・・・
海月

煙草の味は解らないけど身体に悪い事だけは解った
苦味が口の中一杯に広がって煙を宙に逃がす
白煙が黙々と昇って何処かで消えた
社会人になり失くした物は数え切れない
時間の配分や金銭感覚
自分の為に残された時なんて雀の涙ほどしかないことを知る

幼少時代に秘密基地の中にずっと居たら雨が降ってきて帰れなくなった
雨音が身に沁みて夏なのに冷たく
濡れた衣類が更なる恐怖心を生んだ

坊や傘の中にお入り

背の高い綺麗な女性が其処に居た
僕は最初は丁寧に断ったが
女性は無理矢理に傘の中に入れた

家までの距離はそんなに離れていなかったが
その時の時間の流れは生涯で一番ゆっくり流れていた
女性は無口で何も喋らず
僕はそれに付いて行くだけだった

ありがとう

家に着いたので僕はお礼を告げた
傍には誰も居なくて
傘を持つ僕が一人で立っていた

あの日から雨が降ると思い出す

白煙で視界が曇り
あの日の女性が通り過ぎたことは
誰も知らない


自由詩 喫煙所で・・・ Copyright 海月 2006-08-09 22:51:16
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