ジュラシック・パーク
千月 話子

日焼けした かき氷屋の主人の
肩から流れ落ちる汗が
石床に着地すると
閉じ込められたアンモナイト等が
ゆっくりと 泳ぎ出す
冷たい水しぶきを追いかけ
飛び回る子犬の様子を伺いながら


淡水と海水が入り混じる
浅い水辺は
客席まで広がって
人々の足裏で
逆さまのジュラ紀の
海 海 海 になる


喧騒が床凪を揺らし
さざ波になろうとも
人々の興味は
いつも上方にあるので
今だ 誰も気付かないけれど


子犬は 聞いていた
巨大魚が飛び跳ね
散乱する水しぶきの音を
不思議な気持ちで


その頃 話し好きな少女の
虹色の かき氷が
ガラス皿の縁から
溶けて流れて行く先は
深海


色の見えぬ生物に
いつもと違う
水 水 水の
纏わり付いて
「冷たい」と
発光する体 美しい体


そのようにして
過去と未来が
ここで繋がった瞬間を
誰も知らない
嘘か本当か 本当か嘘か
いつも誰も知らない
暗闇が 深過ぎて


日焼けした かき氷屋の主人は
定休日の 深夜に
発熱した右腕を ギシギシと外し
ビニール袋に入れてから
冷凍室で 翌朝まで凍らせる
今夜は 氷河期


古臭い 霜の奥で
指先の指紋から
アンモナイトが浮き出して
ガタガタと 震えていた





自由詩 ジュラシック・パーク Copyright 千月 話子 2006-08-08 22:55:58縦
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