ジュラシック・パーク
千月 話子
日焼けした かき氷屋の主人の
肩から流れ落ちる汗が
石床に着地すると
閉じ込められたアンモナイト等が
ゆっくりと 泳ぎ出す
冷たい水しぶきを追いかけ
飛び回る子犬の様子を伺いながら
淡水と海水が入り混じる
浅い水辺は
客席まで広がって
人々の足裏で
逆さまのジュラ紀の
海 海 海 になる
喧騒が床凪を揺らし
さざ波になろうとも
人々の興味は
いつも上方にあるので
今だ 誰も気付かないけれど
子犬は 聞いていた
巨大魚が飛び跳ね
散乱する水しぶきの音を
不思議な気持ちで
その頃 話し好きな少女の
虹色の かき氷が
ガラス皿の縁から
溶けて流れて行く先は
深海
色の見えぬ生物に
いつもと違う
水 水 水の
纏わり付いて
「冷たい」と
発光する体 美しい体
そのようにして
過去と未来が
ここで繋がった瞬間を
誰も知らない
嘘か本当か 本当か嘘か
いつも誰も知らない
暗闇が 深過ぎて
日焼けした かき氷屋の主人は
定休日の 深夜に
発熱した右腕を ギシギシと外し
ビニール袋に入れてから
冷凍室で 翌朝まで凍らせる
今夜は 氷河期
古臭い 霜の奥で
指先の指紋から
アンモナイトが浮き出して
ガタガタと 震えていた