幸せと出会う丘で
恋月 ぴの

「おばあちゃん元気にしていた?」
わたしの大好きなおばあちゃん
共稼ぎの両親はいつも家にいなくて
学校から走って家に帰ると
おばあちゃんが出迎えてくれて
手作りのおやつがとても美味しかった
突然の雨降りに下駄箱の前で困っていると
にこにこしながら傘を持って迎えに来てくれて
どこかの民謡なんかを口ずさんでくれた
そんなおばあちゃんは待っていた
おじいちゃんが帰ってくるのを
おかあさんがまだおばあちゃんのお腹の中にいた頃
赤い紙切れに呼び出され沖縄に行ってしまった
「必ず帰ってくるから」と言い残して
おじいちゃんは兵隊さんになってしまった
そして終戦を迎えたある日のこと
おばあちゃんが受け取ったのは
おじいちゃんが沖縄で戦死したとの便り
でも おばあちゃんは話してくれた
気が小さいおじいちゃんのことだから
恐ろしい戦争は終わった今でも
カメヌクーのなかでひとり隠れているよ
誰も怒ったりしないから早く出てくれば良いのにねえ
今日もあの日のように暑くて
夏空に真っ白な雲が幾つも浮んでいて
「好きな人できたんだよ」
両親と喧嘩して家を出て行くときも
心配そうに駅まで見送ってくれて
いつまでもホームで手を振ってくれた
とっても優しかったおばあちゃん
「もしかしたら結婚するかも」
まわりを綺麗に掃き清め
お花を供えれば薫る線香のかおり
お墓に水をかけて
そっと ふたりに手を合わす
おじいちゃんを待っていたおばあちゃん
でも ずっと待っていたのは
おじいちゃんのほうだったのかな
天国で仲良く暮らしているんだよね
いつのまにか感じはじめる夕暮れの気配が
ふたり一緒のお墓を優しく抱きしめて
手桶かたかた猫にも挨拶



自由詩 幸せと出会う丘で Copyright 恋月 ぴの 2006-08-08 11:39:08
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
わたしたちの8月15日