沈没する夕暮れ
iloha

膨らむ桃色の空を背に
途切れる走査線

建てこんだ古い家屋のすき間を
心地よい轟音にまかせて
走り抜ける列車が
壊れた映写機のように
飛びだす光の窓

焼き魚のにおいに
回転しながら
ゆるやかな坂道へ
一日をつないでいくので

朝の憂鬱を忘れた脳は
ゆっくりと弛緩して
遠景から近景へ
折り重なる暑気
近づく選択
心象に触れる目線を
踏み切りに重ねて

酒屋を過ぎ
すれ違った空気の揺れに
一瞬間、きみのかけらが垣間見え
いまだ絡まったままの影に
足をとられる

ふと、ふらつく金木犀
樹と、空と、路地と、ぼくとをつなぐ曖昧な綿雲

透明の時間は
ぼくを、ふくらはぎから溶融し
人びとの試行錯誤の間へ
沈没していく
歩道の夕暮れ


自由詩 沈没する夕暮れ Copyright iloha 2006-08-05 23:06:11
notebook Home 戻る