儚い部屋、言葉の部屋
霜天

どれだけの言葉を飲み込んで
君は生まれていくのだろう
統制のとれた四角い部屋に
白い壁、のような服
悲観的な視線たちが
埋め尽くしてしまいがちな世の中に
「ほら、窓の外はこんなに明るいよ」
と、人の夢に似たものは、青い空へ近づくために
命づく、夏草の果てへと
いつか、蓄えられた空が零れる前に
言葉は君になって
この部屋を、出て行く




どれだけの言葉を吐き出して
君は崩れていくのだろう
その足跡は、小さな海になり
泳げない、と誰かが漏らした
薄紅を軽く指に乗せ
誰かの頬に触れたとき
伝わることは多すぎて
残された言葉はかたちになれない
「今は空がプールになる時代だから」
とか、傾き始めた陽射しの部屋に
このままどこかへ行ってしまおうか
笑いかけた横顔を、そっと押し返してくれたのは
その距離を知っているから、だろうか
乾いた夕暮れに夏の影は揺れた
君はすっかり言葉になって
まだ、遠くへと行くことが出来る


  *


今も、どこへも行けない僕らが
言葉の着地する場所を夢見て
残された隙間を沿うように
低空飛行する夏は
いつも誰かの影を見ている


自由詩 儚い部屋、言葉の部屋 Copyright 霜天 2006-08-05 18:20:15
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