「 みんなぐるみん。 」
PULL.







アシカの着ぐるみは、
足から着なさい。
と、
園長先生がいいます。

だけど、
そういう園長先生の、
背中のチャックは半開きで、
中からクマの毛がはみ出しています。

園長先生はツキノワグマです。
時々ふらっと旅に出て、
野山を駆けずり回り、
マタギと闘い、
月夜に吼えます。
そしていつもお土産の、
シャケの燻製をいっぱい抱えて、
園長先生は帰ってきます。

でもこれは秘密です。

とっても可愛い、
ぼくのチヨコ先生は、
オオアリクイです。
お昼休みに、
校庭でひとり、
黙々とアリを舐める、
チヨコ先生の後ろ姿は、
抱きしめたくなるぐらい、
きゅーとです。

でもこれは秘密です。

なんでもよく知ってる、
ものしりケンくんは、
ナマケモノです。
鉄棒にぶら下がると、
先生が止めるまで、
降りてきません。
そんな時のケンくんは、
爪が立っていて、
ちょっと怖いです。

でもこれは秘密です。

ちょっぴり生意気な、
幼なじみのミヨちゃんは、
ナウマンゾウです。
冬になって雪が降ると、
ミヨちゃんは遠い目をして、
空を見上げます。
そうしているミヨちゃんは、
ぼくが知っている、
ミヨちゃんじゃないような気がして、
なぜか胸がきゅんとなります。

でもこれは秘密です。

いやらしいことばかりいっている、
おませのミチヒコくんは、
ダイオウイカです。
イカ臭いです。
すごくイカ臭いです。
ものすごくイカ臭いです。
だけどダイオウなので、
将来は安定していそうです。
少し羨ましいけれど、
やっぱりイカ臭いです。

でもこれは秘密です。

アシカの着ぐるみは、
足からよりも、
頭からの方が着やすいです。
着ぐるみは、
冬は暖かくて、
夏はすごく暑苦しいです。
この頃少し窮屈になってきて、
昨日ママにそれをいったら、
また新しいのを縫ってくれると、
ぼくに約束してくれました。
ママはとっても手先が器用で、
シャチぬいぐるみや、
ペンギンのぬいぐみなど、
なんでも作れるスーパーママです。
ぼくはママが大好きです。
チヨコ先生よりもミヨちゃんよりも、
ぼくはママがこの世で一番大好きです。

でもこれは秘密です。

ママはママで、
パパはパパです。
だけどこの間、
夜中にのどが渇いて、
一階のキッチンに降りていったら。
隣の居間で、
ママとパパが、
なにも着ていない姿で、
汗まみれで絡み合っていました。
パパの上にまたがったママは、
どこか苦しそうでした。
それを見ていたら、
なんだか気持ち悪くなって、
トイレで吐いてしまいました。
着ぐるみの中のぼくのおちんちんが、
痛いぐらい堅くなっていて、
今すぐパパを殺したい、
そう思いました。

でもこれは秘密です。


ここでは誰もがみんな、
ニンゲンの着ぐるみを着ています。

ぼくひとりだけ、
アシカの着ぐるみです。

でもこれは秘密です。












           了。



自由詩 「 みんなぐるみん。 」 Copyright PULL. 2006-08-05 17:36:49
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