パンダvs兄弟
ゼッケン

パンダの毛皮のコートが欲しいの
と、彼女は言い、おれは上野動物園を襲撃した

帰りは
おれと弟のふたりで
パンダが抱きついたままのタイヤを物干し竿にぶら下げ、
それぞれの端を肩に担いで走った

部屋に戻り、おれは弟に金属バットを渡して言った
これでガツンとやっちゃってよ
弟はおれの尻をバットで叩いた
うおう。おれじゃないでしょ。パンダでしょ、パ。ン。ダ。

「死闘」
「パンダ!」
「ブイエス」 
「ブラザぁ」

えー、おれがやんのかよ。センパイのときもそうだったじゃん
しょうがないでしょ。虫も殺せない兄でスマン
なんだよ、スマンて。はっきり言って、死んでください、おにいさん
そうなんだけどさ、おれが死んでおまえが倍生きられるんだったら
おまえにはさ、おれのぶんまで生きて欲しいなあって
ほんとにそう思うんだよ。ムリだけど。さ、そういうことで、そこのパンダの眉間をガツンと。バットで、ガツンと
弟はパンダにバットを振り下ろした
おれはパンダがこんな声で吼えるものとは知らなかったので、驚いて立ち尽くしてしまった
猛り狂ったパンダは弟に突進し、のしかかると、竹を噛み砕く牙で弟の喉笛を狙う
弟はバットを盾にして必死に防ぐ
そういえば普段食べている笹が山になくなると、パンダは里に下りて家畜を襲うという話を聞いたことがある
アニキ!
パンダってこええなあ
アニキィッ!
おれはパンダの背後から首に電気コードを巻きつけると両腕で締め上げる
なんとかパンダを弟から引き離そうと試みる。くるりとパンダがこちらを向いた
牙がおれの目の前にあった。生臭い息が顔にかかる
鈍い音がしてパンダは床に伸びた
立ち上がった弟が振り下ろした金属バットを握り締めたまま肩で荒い息をついていた
おれと弟はぐったりしたパンダを間に挟んだまま、しばらく口をきけなかった

出来上がったパンダの毛皮のコートはかなりかっこよかった
おれは彼女とは結婚する気はなかったので、これを彼女に渡すのはやめにした
弟には結婚するつもりの相手がいるらしかったので、弟に渡した
弟はこれは彼女の趣味じゃないと言った
じゃあ、おれたちで着たいときに着よう
と、彼女と別れたおれは言った
弟はアニキしか着ねえよと言った


自由詩 パンダvs兄弟 Copyright ゼッケン 2006-08-05 07:11:27
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