「 鬼火。 」
PULL.







鬼の葬列とは、
かくも美しいものか。


日の沈む、
餓えた幻野。
果てへと続く、
燐光の列。

櫻草の上、
風に撫ぜられ、
虚ろ漂うは、
鬼の魂。

あれは夕べ殺された。
名もなき鬼子。

鬼と呼ばれ、
不浄と忌まれ、
争う叫びさえも聴かれず。
戯れに殺された、
名もなき鬼子の魂。


姿なき声を聴くという、
祭壇の主はこう告げた。

おぞましきその姿は、
不浄の魂の証であると。
生まれ出でたる罪は、
その命を持って贖えと。

ならば見よ。
あの鬼を。

不浄な鬼の魂が、
かくも美しいものか。
呪われた魂の火が、
かくも悲しいものか。

揺らぐ燐光は、
蒼白き死者の顔。
果てへと続く葬列は、
声なき鬼の声。


おぞましきは、
鬼の姿にあらず。
人の心なり。




月を喰らう、
鬼の幻野。
果てへと続く、
骸の列。

櫻草の上、
風に撫ぜられ、
虚ろ笑うは、
髑髏。

鬼が逝く。

今宵もひとり、
鬼が逝く。


ああ、
鬼の葬列とは、
かくも美しいものか。












           了。



自由詩 「 鬼火。 」 Copyright PULL. 2006-08-05 04:59:32
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