むかしばなし2
佐々宝砂
牛が生まれる
大騒ぎしているのは人間ばかりで
牛は慣れたもの
これで五度目のお産だ
まだちいさいわたしは
目をみひらいている
子牛は逆子で
おじさんは苦労している
どうやったものか
どうしても思い出せないけど
ぐるんとひっくり返して
ひっくり返ったから
牛は頭からずるり
後産がでてくる
おじさんがひっぱりだす
赤くて黒くてなまぐさい
子牛は小さすぎた
やせすぎていた
とうとう立てなかった
こりゃだめだなとおじさんが言った
おとうさんがハム工場に電話した
子牛が飲むはずだった初乳は
おかあさんが鍋で煮て
もろもろのチーズにした
初乳→出産後はじめて出る牛乳。濃すぎて売り物にならない。