沈んでみても、何も知らないままだった
霜天



沈んでみても、何も知らないままだった


それは六月のサイレン
降り止まない四月の桜
同じところを同じだけ繰り返して
歌声はそれでも高いところを目指している

好きな人を好きなだけ、好きでいられること
それと同じくらい、空を押し上げる手で掴みたかった
人は花と、消える
それは帰れない三月の桜
両手一杯に受け止める七月のサイレン
君の好きだった歌を、好きなだけ歌って
いつも、何かが始まっていく


道は二つに分かれていますが
道は二つに分かれていますが
等しくない景色は僕らに、等しく分け与えられていますから
風は止みますが
潮騒は誰の耳にも留まらず
道は二つに分かれていますが
それでも歌を口ずさみながら
私はどこか崩れていくの、です

(それが癒す、ということならば)


同じく、朝にも
誰かの声は消えて
同じく、朝にも
新しい顔に恋をする
沈んでみても、何も知らないままだった
誰かの声が聞こえて
誰かが言葉に直していく

それは空を埋めた四月の桜
もう鳴ることもない夏のサイレン
八月は、同じように繰り返す朝に
もう誰も、泣くことはない


自由詩 沈んでみても、何も知らないままだった Copyright 霜天 2006-08-03 01:50:38
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