Birthday
たちばなまこと
誰もいない
誰もいない
病室 間接照明 真夜中の廊下 スリッポンの平たい音
刻まれるあなたの心音
怖くない
怖くない
携帯には父親からの祈りが届いて
振り幅が広くなると 私は息を吐いて
痛くない
痛くない
かすむ くぐもる深夜
意味のないテレビ放送でもいい
大丈夫とだけ
言って
今夜 水がおりて
4番手になった私は
あなたの痛みと一緒に 世界を開こうとしている
内側から熱を持って あなたは
満ち潮の波を荒げるように
強く
強く なって
父親が言う
マリア様のような私にたどり着きたくて
誰もいない
誰もいない
病室 あなたと父親の名に火をつけて
あかりを咲かせたい
花よ
大丈夫と言って
夜は青灰に抜け
浄化を待つものを 鮮やかに染め上げてゆく
光
光の中へ 走るように あなたを呼びに
誰もいない
誰もいない 孤独から這い出るように
痛みと手をつないで
もうすぐあなたと手をつないで
打ちよせる痛みの狭間で
あの祈りが時計の 4と5の間で見ている
手をつないで
3人で手をつないで
限りある永遠でも歩いてゆきたいと
眼を見開いて
あなたのいる新しい世界へ
私はもうすぐ羽を得て
あなたの呼吸を抱きしめる
無影灯 蛍光灯 映し出された時計に
湿っぽい朝の匂いが重なる頃
メレンゲになった私たち
秒針は
朝をささやく
遠く
遠く 目覚めた父親の声のように
私たちの糸を
ぎこちなくほどいてゆく