オレンジジュース
結城 森士

凍死しそうな真夏の夜に
電線に止まっているカラス
銀色のグラスに注がれた
オレンジジュース
私の体は透き通って
喉を通過する無感動
何も飲んでいない

凍死しそうな真夏の夜に
女は去り、街を徘徊する
そして午前二時の黒猫
闇の中をカラスが鳴いている

『一体誰を呼んでいるのか
 お前が鳴くには早過ぎる
 それとも
 大切な者を失った私を
 笑っているのか

 そんなに繰り返し鳴くな
 寝ぼけているのか
 それとも
 嫌な夢を見たのか

 落ち着いて眠れ
 夜の闇はお前に優しくないはずだ』

自分の発した声に目を覚ます
それにしても喉が渇いた
オレンジジュースを注いでくれ

凍死しそうな真夏の夜に
立ち並ぶ家々の
遥か向こうから
喧嘩した女が
私の家を睨んでいる
今にも潰されそうで
怖い

凍死しそうな真夏の夜に
夜の星はオレンジ色に光っている
自室の扉を開けると
女が立っていた
「し・・・」
私は言葉を止められた
「感情は言葉に操られる」
私は何か喋ったが
何を喋ったか忘れた

朝焼け
電線のカラスが飛び立つ
太陽のグラスいっぱいに
オレンジジュースが溢れ出している


自由詩 オレンジジュース Copyright 結城 森士 2006-07-30 23:49:25
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行方不明にて