人の会話
AB(なかほど)

そういえば
一昨日から何も喋ってない

美味くも不味くもない中華そば屋で
気付いてしまった
食べ終えてアパートに帰るまでは
気持ち抑えておこう
と思った先から
残り半分の麺の量が全然減らない

出るのかな
まだ出るのかな
東京にもこんなに
静かな夜の場所があったのかな
という思いが油っぽい湯気に捲かれると
たまらず
 あ
と声が漏れた
すると
店の隅のほうからも
 あ
と声が漏れた
湯気の向こうの鍋の向こうからも
 あ
と 漏れてきた
みんなもうちょっと
もうちょっと生きてみるか
がんばるのも
がんばらないのもいいからさ
せめて誰かのために
優しくなりたい
誰かが引き戸を開けて
入ってくると
もうその会話は途絶え
僕は残りの麺を一気にすすった


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自由詩 人の会話 Copyright AB(なかほど) 2006-07-29 23:51:11
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