青色の血
明日殻笑子

先生 にんげんとは
さびしい、本当にさびしい生き物だと私はきいたのです
世界にはパンのひとかけらや真水のひとしずくを
ひびわれた皿のような目をして待っているうちに
そのパンやその水の代償になってしまう人がいて
ネジ巻きのブリキほどに感情を欠落させながら
彩度が違うだけの真っ赤な泡沫うたかた
体や神経を洗う人がいて
何もかも無くしてしまった焼け野が原で
かけらだけ残った心を齧って暮らす人がいる


だけどじっと目をこらした地平線の向こうでは
しかめ面でひとくちかじったバーガーを踏みつけては
甘黒くなるまで砂糖をいれて水を飲む
ていねいに種をまいて育てた摩天楼をながめながら老人たちは
これを異文化だと金の皿のような目をして笑っていたし
切腹を知らずに育った若者たちは
情に虚ろなまま自由を飼いならそうと
逆に自由に噛みつかれて凶暴なまでに不自由をふりかざす
同じ彩度の赤が手首から垂れて
違う彩度の赤が誰かから垂れて
けれどそんな赤じゃもう誰もかなしいとは言わない


もう いいじゃないか
うまくまるく目をそらしたら
いいじゃないか いいじゃないか いいじゃないか もう
誰もがそう思わずにはいられないのなら
先生 にんげんとは
さびしい、本当にさびしい生き物なのかもしれない
だけれどそれでも私は
こんなにも深い青が
満たされるように抱きしめてくれる星に
生まれてこれたというただそれだけのことを
こんなにもいとおしいとそう思うことで
ひとに流れる青色の血が癒されることを願ってやまない


自由詩 青色の血 Copyright 明日殻笑子 2006-07-29 04:40:41
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