低気圧
iloha

前線が
ぼくらを踏みつけにして
粘着質の雨を停滞させる
内臓は肋骨にぶら下がったまま
くるくると渦をまいて
今日の天気に反応している
こみ上げてくる葡萄の粒、
胸で弾けて
お気に入りのシャツをひどく汚してしまった
新しい知識をはめこむ細胞に
蚊取り線香の煙が染み
真夜中に/早朝に/夕方に/
目を覚ましては
だらしなく口を開きながら
大気のせめぎあいに
気づいていく

地下鉄の轟音のなかに
〈美しいもの〉を忘れてきた
ぼくを
」つかまえてくれ、
カビ臭い岩壁よ
ゆがんだ蛍光灯が
震える自動車のバックシートに照らしだす
鮮やかな鼓動に打たれ
流れるテールランプの残像といっしょに
見すごしてきた過ちが
砂利道に突っ立ってるのに
ただ事態を傍観することもできず
リアルな世界の鳥羽口で
どこまでも濁流に流されて――

ぼくは、形を変えて行く

きみをまるごと引きずり込む
低気圧なのだ。


自由詩 低気圧 Copyright iloha 2006-07-25 16:25:27
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