雨が降っている
yo-yo


この雨はもう止まないかもしれない
街も道路も車も人も水浸しになっている
ほんとに誰かがバケツの水をぶちまけているのだろうか
梅雨の終わりには
雨の神さまがバケツを空っぽにして騒ぐのさ
そう言ってた祖母はいまや雨より高いところにいて
ぶちまけたバケツの水で溺れそうになった父も
とっくに雨の向こうへ行ってしまった

裏には山があり前には川がある
今頃は年老いた母がひとりぼっちで泣いている たぶん
家財道具を2度も川にさらわれた
タンスやフスマが流れてゆくのを呆然と見ていた父が
海釣りの竿が浮いているのを見つけ
慌ててどろ水のなかに飛び込んだ
がらんどうの家のなかに残ったのは
壊れた冷蔵庫と釣竿だけだった
あれから父は黒鯛をなんびき釣っただろう

生き残った人間だけが水浸しになっている
もう魚になって生き延びるしかないかもしれない
山が崩れ家が埋まり橋が流され人が消える
母が川の音を聞いている山の音を聞いている たぶん
誰も帰ってこないと嘆いている たぶん
雨が降っても降らなくても嘆いている たぶん
電話の呼び出し音が鳴っている
黒い電話器が鳴っている
母はベッドからゆっくりと体を起こす たぶん
急に起きたので貧血でぼんやりしている たぶん
痛い痛いと腰を曲げたまま立ち上がる たぶん
黒電話まで数歩 たぶん
それともすでに
水に流されてしまったか
電話の呼び出し音は続いている
雨も降り続いている






自由詩 雨が降っている Copyright yo-yo 2006-07-23 11:24:11
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