海を知るか
たりぽん(大理 奔)

はじめて海を知ったのは
函館山の東側、岩だらけの海岸でした
あちらこちらに見える対岸の
私との間は早波で仕切られ
たくさんの潜水艦が行き来しているのだと
おじいちゃんに教わりました

次に海を知ったのは
横浜の有名な公園でした
右目の手術をした帰り道に
埠頭の先で外国船を見ようねと
優しく手を引いてくれたのは
おかあさんでした

海を知ったのはたぶん
白浜の海水浴場でした
ホテルの小さなディスコで踊った後
静かに寄せる浜辺の波紋のように
私はいくつかの眩暈を
覚えたのでした

海を知ったのはきっと
土佐中村に向かう海岸線でした
台風が二つもやってきて
街灯もまばらな国道を洗う
激しい波飛沫をくぐり抜け
帰り着いた先に待っていたのは



いつの日からか
海はいつでも胸の中にあって
そして、いつまでも視界の外にあって
ゆっくりと、荒々しく
優しく、そしてそれに恐怖しながら
まだ生まれていないかのように
身を任せてしまうのです

ああ、それはどんなにか
どんなにか残酷なことなのでしょう
胸の中の海を知り
自分の外の海を知り
恐ろしく世界は優しく深いのだと
波はどこまでも冷たいのだと




自由詩 海を知るか Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-07-18 00:00:37
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